十九、光の電磁気説
一八四六年に王立協会でファラデーのやった金曜の夜の講演に、「光、熱等、輻射のエネルギーとして空間を伝わる振動は、エーテルの振動ではなくて、物質間にある指力線の振動である」という句があった。この考は友人フィリップスに送った手紙にくわしく書いてあり、またこの手紙を、「光の振動についての考察」という題で、同年五月のフィロソフィカル・マガジンにも出した。
これが、ファラデーの書いたものの中で、最も想像的なものとして著名なので、少しも実験の事は書いてない。恐らくこの時こそ、理論家としてファラデーが最高潮に達した時であろう。
上の物質間にある指力線の振動というのが、今日の言葉でいうと、電子の間にある電磁気指力線の振動の事で、これが光、熱等の輻射に外ならずというのである。この考こそ後になって、マックスウェルが理論的に完成し、ヘルツが実験上に確かめた光の電磁気説である。マックスウェルの書いた物の中にも、
「ファラデーによりて提出された光の電磁気説は、余がこの論文に精(くわ)しく述ぶるものと、実質において同じである。ただ一八四六年の頃には、電磁波の伝わる速度を計算する材料の存在しなかった事が、今日との相違である」と。
二十、その他の研究
この一八四六年の後半より翌年にかけて、ファラデーは研究を休んだ。その後一八四八年の十二月に至りて発表したのが、「電気の実験研究」の第二十二篇になっている、磁場におけるビスマスの性質を研究したものである。ビスマスの結晶を一様なる強さの磁場に吊すと、必ず一定の方向を取るので、(一様な強さの磁場に吊すのは、もともとビスマスに強い反磁性があるゆえ、磁場の強い所から弱い所へと動く性質がある。これの顕(あら)われ無い様にする)ためである。これは、結晶体の構造に方向性があることを示すので、ビスマスのみならず、砒素、アンチモニーの結晶にも、同様の性質がある。なお研究の続きを一八五〇年三月に発表した。(「電気の実験研究」第二十三篇)
ファラデーは以前から、重力と電気との間に関係あるべきを確信しておったが、その実験をしても、少しも結果を得なかった。その得ないままを、同年十一月に発表した(同上、第二十四篇)。また同時に、酸素、水素等の磁性の研究を発表し、酸素に強い磁性あることを記した(同上、第二十五篇)。なお磁気性に対する伝導の力すなわち誘磁率の研究と空気の磁性の研究も発表した(同上、第二十六篇および[#「第二十六篇および」は底本では「第二十六篇および」]第二十七篇)[#「第二十七篇)」は底本では「第二十七篇)」]。ただし、空気の磁性の研究は学者間に余り賛成を得なかった。
二十一、再び感応電流に就いて
翌一八五一年には七月より十二月の間、再び電磁気感応の研究をして、定量的の定律を発見した。すなわち、一様の強さの磁場で針金を一様に動すとき、感応によりて生ずる電流の強さは、その運動の速さに比例し、従いて針金の切りたる磁気指力線の数に比例すというのである。
次に、磁場の強さや大いさを測定するに、この定律を用いて、感応にて生ずる電流の強さの測定による方法を考えた。これらの研究は同年十二月並びに翌年[#「に翌年」はママ]一月に発表し、「電気の実験研究」の第二十八、二十九の両篇になっている。
この後一八五二年に王立協会にて講演せる「磁気指力線」に関するものおよびフィロソフィカル・トランサクションに出せる「磁気指力線の性質」に関するものは、いずれも有名な論文である。
「電気の実験研究」の第三巻は上の第十九篇より二十九篇までに、今述べた両論文と、前に述べたフィリップスに与えた手紙、それからこの後二、三年間に書いた断篇を収めたもので、一八五五年の出版に係り、総頁五百八十八で、第一巻より通じての節の数は約三千四百である。
入力:松本吉彦、松本庄八 校正:小林繁雄
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